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52週MDの誤解とあるべきMDサイクル 小島健輔リポート | WWDJAPAN.com - WWD JAPAN.com

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。ファッションビジネスの根幹と言われているマーチャンダイジング(MD)はどうあるべきなのか。具体的な事例とともに考える。

 一時、「52週MD」が話題になるなどマーチャンダイジングの多サイクル化が試みられたが、現実の消化回転とかけ離れて在庫と値引きロスの肥大を招き、コロナ禍で売り上げが激減して以降は話題にものぼらなくなった。「52週MD」は品ぞろえと消化進行管理の精度を図るものであってMDサイクルを意味するものではないし、MDサイクルは消化回転との一致が必要だから多サイクル化にも限界がある。現実的なMDサイクルはどうあるべきか、MDの性格やサプライ手法との関連から問い直してみたい。

MDサイクルと在庫回転は一致しない

 ファストファッションがブームとなったのはもう一昔も前のことだが、「H&M」も「ザラ(ZARA)」も週サイクルで新商品を投入しても現実の在庫回転は「H&M」で2.92回(コロナ前の19年11月期)とスローファッションの「ユニクロ」の2.68回(ファーストリテイリングの19年8月期/国内ユニクロは2.78回)と大差なく、ロットを抑えてリードタイムが格段に短いインディテックス(INDITEX、20年1月期では「ザラ」が売り上げの69.2%を占める)でも5.01回に留まる。

 ファストファッションは「リードタイムが短い小ロット生産のトレンド商品を短サイクルに売り切るマーチャンダイジング」だから本来は高速回転するはずで、ODM業者が持ち込む企画をロット買取するバイイングSPAでは最盛期の「セシルマクビー(CECIL McBEE)」のように20回転を超えるケースもあった。それに比べると大規模化したグローバルなファストSPAは自社企画でロットもケタ違いに大きく、生産リードタイムもファストとは到底いえないくらい長くなり、投入サイクルと消化回転が大きく乖離している。

 発注から2週間という「ザラ」の裁断素材&副資材支給・工賃払いローカル調達(スペインとポルトガル、全商品の10%程度)は例外として、製品買い上げのグローバル水平分業調達では3カ月以上、工場の閑散期に入れてコストを落とす大ロット調達では6カ月以上もかかる。それでは企画決定から販売までのタイムラグが大きく需給ギャップが広がるから、当たり外れが生じて在庫回転がスローになり値引きロスも肥大する。

 スローファッションは「リードタイムの長い大ロット生産の定番的商品を長期サイクルで継続販売するマーチャンダイジング」と定義したい。定番的商品はシーズン末に売れ残っても翌シーズンに持ち越して「正価」販売できるから、在庫回転は遅くとも収益性は安定している。ファストを志向して結果、スロー回転になってしまうより確実なビジネスモデルで、プロ向け定番商品は「10年継続販売」を謳うワークマンや定番を年々進化させるユニクロに代表される。定番的商品もアパレルはフィットやディティールがデリケートに変化するから、持ち越しても翌シーズン中には売り切るべきで、ワークマンのプロ向け「10年継続販売」商品は例外だ。

 定番商品を大ロット一括調達してはシーズンかけた売り減らしになって年2回転が上限になるから、ユニクロは商社に生産地在庫を負担させ(18年8月期の上期までは国内倉庫在庫も負担させていた)、ワークマンはベンダーにVMI※1.で補給と補充生産を委任している。

※1.VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに補給と在庫管理を委任する取引形態

「線」と「面」のMD

 トレンド性の売り切り商品と定番性の継続商品では販売期間が異なるから、同じブランドや業態でもMDサイクルは分けて計画する必要があるし、前サイクル商品の売り切り消化も考慮する必要がある。

 小ロット短サイクルに投入して売り切るファスト商品はロットをミニマムに抑えれば週サイクル投入も可能だが、実際には月度やシーズンで残品を売り切って在庫調整する期間を要するから、キャリーSPA※2.やバイイングSPAでも年間36回が投入サイクルの上限になる。

 前サイクル商品と全く関係のない商品に切り替えると前サイクル商品の売り切り編集が困難になるから、慣れたマーチャンダイザーは同じサプライヤーと「トコロテンMD」を組む。同一デザイン&パターンの素材や柄、同一素材アイテムのディティールや色組みを替えて鮮度を維持し、リレー方式で需要を確実に捉え続けるマーチャンダイジング手法で、同一ラックに新旧商品をトコロテン式に編集陳列して売り切っていけるし、トップとボトムで「定型ルック」を組んでWトコロテン運用することもできる。ファスト商品ではSKU数を絞った「点」のMDを時系列にリレーする「線のストーリー」が問われるのだ。

 定番性継続商品のMDサイクルは、季節的な販売期間とサプライ方法によって年4サイクルか2サイクルになる。定番性の商品に限らず長期展開商品の店舗販売には「周知期間」「実売期間」「売り切り期間」が必要で、少なくとも12週を要する。一括調達の売り減らし商品は12週を目処に売り切り、VMI補給する継続商品は季節的性格によって12週または24週、陳列フェイスを維持し、フェイス解体後の売り切り期間を2週程度見ておく。

 素材軸で色やサイズ、アイテムの多SKUを一覧する陳列フェイス(VMD)を組んで継続展開する「面のストーリー」が問われ、VMI補給では陳列フェイスを維持すべく生機を積んでサイズや色の在庫バランスを補正生産したり、季節感を切り替える差し色を追加生産したりする。

 アパレルのマーチャンダイジングは小さな「点」のMDをリレーする「線のストーリー」で表層を流れる鮮度を訴求する一方、大きな「面」のMDを継続して売り上げのボリュームを稼ぐという二重構造が必要だが、両者のMDサイクルは対極に異なる。定番性継続商品が大半のユニクロでも、数量限定のタイアップ企画商品やスポットの季節商品が鮮度訴求を担っている。

※2.キャリーSPA…東大門など現物市場で調達した素材を使いサンプル商品をベースにビル内縫製工場で一両日で小ロット生産して持ち帰る即席型小規模SPA。韓国ではローカル専門店のオリジナル開発手法として定着しており、渋谷109の黎明期にも活用されていた  

年間のMDサイクルはいくつが適切か

 ファストMDを「スポット企画」と言い換え、「継続企画」と組み合わせて考えれば、MDサイクルを単純に年6シーズンとか8シーズンとか、ざっくり割り切るのは非現実的だと解ってもらえるだろう。実際、15年春夏期から8シーズンに多サイクル化したユナイテッドアローズの在庫回転と粗利益率は15年(3月期、以下同)の2.87回/51.9%から16年は2.92回/50.8%、17年は2.85回/51.0%、18年も2.94回/51.5%とほとんど改善されず、19年こそ3.10回/51.4%と上向いたものの20年には2.93回/50.8%に逆戻りしている。数字の動きは消費動向や天候変化で振れる範囲内で、多サイクル化は功罪半ばしてMDの効率化には至らなかったと推察される。

 店舗展開を前提とする限り、「スポット企画」と「継続企画」をはっきり区分けて毎シーズン、その比率を政策的に定め、「スポット企画」と「継続企画」を個々に積み上げて商品展開を構築すべきで、コレクション受注型のブランドでもない限り全体を何シーズンと設定するのは無理がある。ブランドや業態のMD性格やサプライ方法から年間の在庫回転の範囲は定まってしまうから、MDサイクルは在庫回転と乖離しない範囲で設定するべきで、それ以上を求めるならMD性格とサプライ方法を根本から変えて別のビジネスを模索するしかない。

 コレクションMDなら年2サイクルが基本で、プレフォールやクルーズを加えても年間の商品回転は2回転以上にはならない。定番性継続MDなら年2サイクルと4サイクルの組み合わせになるから年間3回転を目安にするべきで、スポット企画を増やしても値引きロスが肥大する弊害もあり、商品回転が大きく上向くわけではない。

 ユナイテッドアローズの場合、コロナ禍でようやく思い切ったとは言え、コレクション発注のセレクト商品が主体でビジネスウエアの比率も高く、定番商品のVMI化を進めない限り年間3回転が上限だったと思われる。カジュアルシフトして「スポット企画」の比率を高めれば4回転までは改善できるだろうが、商品単価が落ちて販売効率も落ちるから1人当たり販売額が維持できなくなり、経費倒れになって収益性はかえって悪化するリスクが指摘される。
 

MDサイクルだけで収益性は改善できない

 1人当たり販売額は商品単価との相関性が極めて強く、コロナ禍前のユナイテッドアローズは3431万円(19年3月期)と国内ユニクロの3119万円(19年8月期)や良品計画国内直営店の2503万円(19年2月期)を引き離し、1人当たり人件費も489.0万円と国内ユニクロ直営店の386.8万円、良品計画直営店の384.3万円を大きく凌駕して販売力を支えていたが、このロジックが崩れると15%台に収めてきた売上対比人件費率が上昇して収益を圧迫する。

 商品単価を下げれば在庫回転は上向くが、1人当たり販売額が下がれば収益性は悪化する。コレクション受注に基づいて自社工場中心に計画生産するラグジュアリービジネスの在庫回転は2回転に届かないが(19年12月期のLVMHは1.38回/ケリングは1.53回)、単価が高いゆえ1人当たり販売額も極端に高く、売上対比30%前後(LVMHは低収益のセレクティブリテイリング部門を除く)の営業利益率を稼いでいる。

 MDサイクルを細分化することがマーチャンダイジングの効率を高めるとは限らず、MDサイクルと在庫回転の乖離を最小化することがロスを圧縮して粗利益率を高め収益を押し上げる。定番性継続商品中心のビジネスなら売れ残っても持ち越して販売すれば収益の圧迫は最小限に抑制できるから、MDサイクルも在庫回転もスローでも両者が乖離しない限り手堅く収益が得られる。トレンド性のファスト商品でも小ロット短サイクルMDのリレーに徹すればMDサイクルと在庫回転の乖離が最小化され、高回転が高収益に直結する。

 マーチャンダイジングの収益は計画と実現の乖離を縮めるほど高まるから、過剰なギャンブルを回避して無理のないMD計画を組み、VMIやテザリング※3.で最適補給を図り、「52週MD」で週サイクルの消化進行管理を緻密に行って編集陳列やキックオフなどの販売消化ドライブに努め、計画値の実現を追求するべきだ。

※3.テザリング…店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、修理加工の集約やC&Cの店出荷と連携される 
 

小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。近著は店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)

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December 08, 2020 at 06:05AM
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